「本当の自分が認められる幸せ」性同一性障害の高速バス運転士インタビュー | 高速バス・夜行バスの旅行・観光メディア [バスとりっぷ]

by バス比較なび

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「本当の自分が認められる幸せ」性同一性障害の高速バス運転士インタビュー

島根県益田市に本社を置く石見(イワミ)交通に、性同一性障害を抱えながら、女性ドライバーとして高速バスを運転する方がいます。バス運転士になるまでの経緯や、運転士としてのやりがいなどについて話を聞きました。

石見交通の高速バス運転士 川上さん
石見交通の高速バス運転士 川上さん

島根県益田市に本社を置く石見(イワミ)交通で、高速バス運転士として働くこの方。 実は男性です。

正確に言うと、戸籍上は男性。しかし心は女性。
川上さんは、性同一性障害を抱えながら、女性ドライバーとして石見交通で高速バスを運転しています。このあたりでバスを利用する人なら川上さんのことを知っている人も多い、ちょっとした有名人です。


現在、人手不足で不人気職種ともいわれるバス運転士ですが「この仕事は天職。バス運転士になって自分は救われた」と言う川上さん。

バス運転士になるまでの経緯や、運転士としてのやりがいなどについて話を聞きました。



苦しんだ時期を経て、30歳を機に女性に

女性になったのは30歳のとき


インタビュアー

今日はよろしくお願いします。それにしても、見た目は完全に女性ですね。もともとは男性だっていうこと、言われないと全くわからないです。


運転士・川上さん

もともと中性的な顔だったので。それに、今日は撮影もあるっていうことで特に気合い入れてきました(笑)


インタビュアー

なるほど(笑)でも髪も地毛なんですよね? すごい。

では、まず性同一性障害のことについてお聞きしたいのですが、川上さんは自分の心が女性であることを自覚したのはいつ頃だったのでしょうか?


運転士・川上さん

物心ついた頃にはすでに、自分がまわりの男の子とは違うと感じていましたね。
見た目は男だけど男の子らしく振る舞うことができない。そのせいで学生時代はいじめられることもありました。


インタビュアー

小さな頃からずっと違和感を持ちながら過ごされてきたんですね。


運転士・川上さん

やっぱり本当の自分を出せない、隠さないといけないというのが辛かったですね。


インタビュアー

その後、女性になろうと決心されたのは社会人になってすぐですか?


運転士・川上さん

いえ、20代まではずっと男性として過ごしてきました。私はいま35歳なんですが、「女性として生きていこう」と決めていまのような見た目になったのは30歳のときです。


インタビュアー

20代は、男性として仕事をされていたんですね。そこから急に女性になるというのは、かなり勇気が必要だったんじゃないでしょうか?


運転士・川上さん

はい、なかなか踏ん切りがつかなくて時間がかかりました。両親や周りに理解してもらうことも考えると億劫になってしまって。
でも、働いているときもずっと違和感があって。この先まだまだ長い人生が続くことも考えて、思い切って決意しました。


インタビュアー

周りはすぐに理解してくれたのでしょうか?


運転士・川上さん

親しい友だちは性同一性障害のことも知っていたので、わりとすんなりと理解して応援してくれました。それよりも家族の理解を得るのが大変でしたね。やっぱり周りの目も気になるみたいで…。

正直、両親はいまだに心から認めてくれているわけではないと思います。でもそれは身内だからこそ、仕方ないことだって思います。


インタビュアー

たしかに、男の子として育ててきたご両親にとっては、100%理解するには時間が必要なのかもしれませんね。

川上さん自身は、以前の男性としての暮らしと、女性になってからの暮らしの変化についてはいかがですか?


運転士・川上さん

やっと本当の自分が出せるようになってすごく楽しいですし、思い切って決心して良かったと思っています。
いまの会社では女性ドライバーとして勤務させていただいてますし、受け入れてもらって本当に感謝しています。
やっと自分の本当の人生が始まったっていう感じですね。



ドライバー未経験からバス運転士になるまでの道のり

荷物をトランクに積む川上さん


インタビュアー

川上さんは、20代の頃は製造の仕事などをされていたんですね。
そこからバス運転士になろうと思ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?


運転士・川上さん

もともと父親がトラック運転手で、さらにおじいちゃんがバスの運転士をしていたドライバー一家なんです。なので、小さな頃からドライバーの仕事やバスに親しみは持っていました。

それに、私が大学を卒業したのがいわゆる就職氷河期といわれた時期で。20代はずっと非正規の仕事をしていたんです。
手に職を付けてしっかりとした仕事を始めたいと思ったときに、自然と思い浮かんだのがバス運転士でした。


インタビュアー

運転士としてバス会社に入るには、大型免許が必要になりますよね。免許は働きながら取得されたんですか?


運転士・川上さん

多くのバス会社では、応募自体は大型免許がなくても可能なのですが、ひとまず仮内定という形で。免許取得後に正式に入社決定となる場合が多いです。

私は仕事以外の時間を利用して、1か月ほど自動車学校に通って取得しました。


インタビュアー

普通自動車から急にバスを運転するとなると、難しくありませんでしたか?


運転士・川上さん

最初はなかなか車体感覚がつかめなくて、慣れるまでは苦労しました…。特に内輪差が大きくて難しいんですよね。

いまでこそ運転が上手いと褒められることもあるんですけど、学校に通っていたときは、何とか合格はしたものの教官から「補修受けろ」と言われるぐらいの劣等生でした(笑)


インタビュアー

先ほど上司の方に、川上さんの運転は上手いとお聞きしていたんですが、決してもとから得意だったわけではないんですね。

川上さんは未経験からバス運転士になられたわけですが、同じようにこれまでドライバー経験のない人や女性がバス運転士になるのは、ハードルが高いと思いますか?


運転士・川上さん

たしかに慣れるまでは苦労するところもあると思います。でも、「バス運転士になりたい」という気持ちさえあれば、免許を取ってドライバーになること自体はそこまで難しくないはずです。
なにせ劣等生だった私がなれるぐらいですから。



やっと見つけた、”本当の自分を認めてくれる環境”

バス車両の前に立つ川上さん


インタビュアー

川上さんはいま、本社のある島根県益田と広島駅を往復する「広益線」の高速バスを運転されています。
お客さんはどんな人が多いんですか?


運転士・川上さん

実はこの路線はちょっと変わっていて。高速バスなので当然、高速道路も走りますが、それ以外では住宅街の細い道も通ります。
なので、日常の生活の足として利用するお客さんも多いですね。
時間帯によっても違いますが、たとえば通勤で利用する会社員の方や、通学で利用する中学生・高校生もいます。


インタビュアー

まだまだ女性のバス運転士は珍しいと思います。毎日運転していると、川上さんのことを覚えてくれるお客さんもいらっしゃるんじゃないでしょうか?


運転士・川上さん

やっぱり目立つみたいで、覚えてくださる方も多いです。「いつもがんばってるね」と農家の方から野菜をいただいたり、「休憩中に食べて」とお菓子をいただいたりしたこともあります。

アナウンスの声などから、私がいわゆる普通の女性とは違うことがわかる方もいらっしゃるのですが、好意的に接してくださる方が多くて、ありがたいです。


インタビュアー

川上さんは、特に接客の評判が良いとお聞きしました。何かふだん意識されていることはありますか?


運転士・川上さん

いま運転する路線は細かい道も通るので、バス停近くの場所について聞かれることもあります。「◯◯病院はどう行けばいいの?」とか。なので、バス停周辺の情報はできるかぎり理解しておこうと勉強しています。

あとは、車内アナウンスをどこまでするかは運転士に任されているのですが、私はかなり多めにアナウンスするほうです。「◯◯まではあと◯分程度で到着します」など、細かい情報もお伝えするようにしています。

運転面でいうと、ブレーキをかけるときやカーブを曲がるときに、なるべくお客さんに負担がかからないように気を付けていますね。


インタビュアー

なるほど、運転以外でも気を使うところは多いんですね。
そんな川上さんのバスに乗車したお客さんから、感謝の手紙が届いたこともあるのだとか。


運転士・川上さん

そうなんです、私もびっくりしました。「女性らしい丁寧な接客とやさしい運転に感動しました」ということがびっしり書かれていて、感激しました。

小さい頃は男の子らしくできないことでいじめられていたけど、いまは女性らしさが認められて、それで社会の役にも立てている感覚があって、本当にうれしいですね。
女性になって、バス運転士になって本当に良かったと思います。

バスの利用者から届いた、川上さんへの感謝の手紙
バスの利用者から届いた、川上さんへの感謝の手紙



もっと女性運転士が増えてほしい。同じ悩みを持つ人が前に出てほしい。

笑顔でお話する川上さん


インタビュアー

最後に、川上さんの今後の目標や夢はありますか?


運転士・川上さん

ひとつには、もっと地域の人に親しまれるバス運転士になりたいというのがあります。

そしてもうひとつ、私の場合は接客を褒められることが多いので、いずれはマナー講習などをやってみたいと考えています。
いまはバス運転士にも丁寧な接客が求められる時代だと思うので、そこで私が役に立てるんじゃないかと。


インタビュアー

それはすごく良い考えですね。たしかに、これから自動運転が始まっていく時代で運転士に求められるのは、“人間にしかできない接客”だともいわれます。
社内だけでなく社外からのニーズもありそうですね。


運転士・川上さん

あと、これは目標というより願いに近いですが、「世の中に女性のバス運転士がもっと増えてほしい」、そして私と同じように「性同一性障害で悩んでいる人に前向きに生きてほしい」という気持ちがあります。
今回のインタビューをお受けした理由も実はそれが大きいんです。


インタビュアー

川上さんはブログを書かれていますが、読者には同じ悩みを持つ人もいらっしゃるようですね。


運転士・川上さん

はい、性同一性障害の方や女性のバス運転士の方もいらっしゃって。
ブログがきっかけで一緒にごはんに行った人もいます。
やっぱりみんな少なからず悩みを抱えているようですが、私の経験が少しでも役に立てばうれしいですね。


インタビュアー

今日はもしかしたらお話しづらい内容もあったかもしれません。こころよく受けていただいてありがとうございました!


運転士・川上さん

いえ、いまはどんどん前に出ていきたいと思っているので。また何かあればぜひお願いします。
こちらこそありがとうございました!



※本記事は、2018/05/14に公開されています。最新の情報とは異なる可能性があります。
※バス車両撮影時には、通行・運行の妨げにならないよう十分に配慮して撮影を行っています。

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    この記事を書いたライター

    タナベセイジ

    ライター 30代 / 男性

    京都出身→都内のシェアハウス在住。行ったことない場所に行くのが大好き。2018年はサッカー観戦でイギリス&ドイツへ旅行予定です。高速バスは夜行よりも、いろんな過ごし方ができる昼便が好き。

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