「本当の自分が認められる幸せ」性同一性障害の高速バス運転士インタビュー
島根県益田市に本社を置く石見(イワミ)交通で、高速バス運転士として働くこの方。 実は男性です。
正確に言うと、戸籍上は男性。しかし心は女性。
川上さんは、性同一性障害を抱えながら、女性ドライバーとして石見交通で高速バスを運転しています。このあたりでバスを利用する人なら川上さんのことを知っている人も多い、ちょっとした有名人です。
現在、人手不足で不人気職種ともいわれるバス運転士ですが「この仕事は天職。バス運転士になって自分は救われた」と言う川上さん。
バス運転士になるまでの経緯や、運転士としてのやりがいなどについて話を聞きました。
苦しんだ時期を経て、30歳を機に女性に
はい、なかなか踏ん切りがつかなくて時間がかかりました。両親や周りに理解してもらうことも考えると億劫になってしまって。
でも、働いているときもずっと違和感があって。この先まだまだ長い人生が続くことも考えて、思い切って決意しました。
親しい友だちは性同一性障害のことも知っていたので、わりとすんなりと理解して応援してくれました。それよりも家族の理解を得るのが大変でしたね。やっぱり周りの目も気になるみたいで…。
正直、両親はいまだに心から認めてくれているわけではないと思います。でもそれは身内だからこそ、仕方ないことだって思います。
たしかに、男の子として育ててきたご両親にとっては、100%理解するには時間が必要なのかもしれませんね。
川上さん自身は、以前の男性としての暮らしと、女性になってからの暮らしの変化についてはいかがですか?
やっと本当の自分が出せるようになってすごく楽しいですし、思い切って決心して良かったと思っています。
いまの会社では女性ドライバーとして勤務させていただいてますし、受け入れてもらって本当に感謝しています。
やっと自分の本当の人生が始まったっていう感じですね。
ドライバー未経験からバス運転士になるまでの道のり
もともと父親がトラック運転手で、さらにおじいちゃんがバスの運転士をしていたドライバー一家なんです。なので、小さな頃からドライバーの仕事やバスに親しみは持っていました。
それに、私が大学を卒業したのがいわゆる就職氷河期といわれた時期で。20代はずっと非正規の仕事をしていたんです。
手に職を付けてしっかりとした仕事を始めたいと思ったときに、自然と思い浮かんだのがバス運転士でした。
多くのバス会社では、応募自体は大型免許がなくても可能なのですが、ひとまず仮内定という形で。免許取得後に正式に入社決定となる場合が多いです。
私は仕事以外の時間を利用して、1か月ほど自動車学校に通って取得しました。
最初はなかなか車体感覚がつかめなくて、慣れるまでは苦労しました…。特に内輪差が大きくて難しいんですよね。
いまでこそ運転が上手いと褒められることもあるんですけど、学校に通っていたときは、何とか合格はしたものの教官から「補修受けろ」と言われるぐらいの劣等生でした(笑)
先ほど上司の方に、川上さんの運転は上手いとお聞きしていたんですが、決してもとから得意だったわけではないんですね。
川上さんは未経験からバス運転士になられたわけですが、同じようにこれまでドライバー経験のない人や女性がバス運転士になるのは、ハードルが高いと思いますか?
たしかに慣れるまでは苦労するところもあると思います。でも、「バス運転士になりたい」という気持ちさえあれば、免許を取ってドライバーになること自体はそこまで難しくないはずです。
なにせ劣等生だった私がなれるぐらいですから。
やっと見つけた、”本当の自分を認めてくれる環境”
実はこの路線はちょっと変わっていて。高速バスなので当然、高速道路も走りますが、それ以外では住宅街の細い道も通ります。
なので、日常の生活の足として利用するお客さんも多いですね。
時間帯によっても違いますが、たとえば通勤で利用する会社員の方や、通学で利用する中学生・高校生もいます。
やっぱり目立つみたいで、覚えてくださる方も多いです。「いつもがんばってるね」と農家の方から野菜をいただいたり、「休憩中に食べて」とお菓子をいただいたりしたこともあります。
アナウンスの声などから、私がいわゆる普通の女性とは違うことがわかる方もいらっしゃるのですが、好意的に接してくださる方が多くて、ありがたいです。
いま運転する路線は細かい道も通るので、バス停近くの場所について聞かれることもあります。「◯◯病院はどう行けばいいの?」とか。なので、バス停周辺の情報はできるかぎり理解しておこうと勉強しています。
あとは、車内アナウンスをどこまでするかは運転士に任されているのですが、私はかなり多めにアナウンスするほうです。「◯◯まではあと◯分程度で到着します」など、細かい情報もお伝えするようにしています。
運転面でいうと、ブレーキをかけるときやカーブを曲がるときに、なるべくお客さんに負担がかからないように気を付けていますね。
そうなんです、私もびっくりしました。「女性らしい丁寧な接客とやさしい運転に感動しました」ということがびっしり書かれていて、感激しました。
小さい頃は男の子らしくできないことでいじめられていたけど、いまは女性らしさが認められて、それで社会の役にも立てている感覚があって、本当にうれしいですね。
女性になって、バス運転士になって本当に良かったと思います。
もっと女性運転士が増えてほしい。同じ悩みを持つ人が前に出てほしい。
ひとつには、もっと地域の人に親しまれるバス運転士になりたいというのがあります。
そしてもうひとつ、私の場合は接客を褒められることが多いので、いずれはマナー講習などをやってみたいと考えています。
いまはバス運転士にも丁寧な接客が求められる時代だと思うので、そこで私が役に立てるんじゃないかと。
あと、これは目標というより願いに近いですが、「世の中に女性のバス運転士がもっと増えてほしい」、そして私と同じように「性同一性障害で悩んでいる人に前向きに生きてほしい」という気持ちがあります。
今回のインタビューをお受けした理由も実はそれが大きいんです。
はい、性同一性障害の方や女性のバス運転士の方もいらっしゃって。
ブログがきっかけで一緒にごはんに行った人もいます。
やっぱりみんな少なからず悩みを抱えているようですが、私の経験が少しでも役に立てばうれしいですね。
※取材協力/石見交通
※本記事は、2018/05/14に公開されています。最新の情報とは異なる可能性があります。
※バス車両撮影時には、通行・運行の妨げにならないよう十分に配慮して撮影を行っています。
タナベセイジ
ライター 30代 / 男性
京都出身→都内のシェアハウス在住。行ったことない場所に行くのが大好き。2018年はサッカー観戦でイギリス&ドイツへ旅行予定です。高速バスは夜行よりも、いろんな過ごし方ができる昼便が好き。
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