『桜交通』の乗務員研修に潜入! 交通事故を防ぐ高速バスの安全対策とは?
ざっくり、こんな内容
- 事故がなぜ起きるのか「脳」や「心理」から学ぶ!
- ドライブレコーダーから事故の原因を振り返る
- 「安全への意識」もバス会社選びのポイント
高速路線バス『さくらクオリティエクスプレス』などを運行する「桜交通」の乗務員研修に潜入してきました。今回の研修は、「桜交通」と「インフォマティック」の主催で行われました。
交通事故を防ぐためにバス会社がどのような取り組みをしているのか、その裏側を紹介します!
関東エリアの乗務員約130名が集結!
さくら観光の乗務員研修が行われたのは、代々木公園の近くにある『国立オリンピック記念青少年総合センター』。
さくら観光は、北海道・九州以外の全国にバス路線があり、乗務員さんも各地に分布しているため、東北・関東・関西の3エリアにわけて研修を行っているとのこと。
今回お邪魔したのは、関東エリアの乗務員研修です。さっそくセンターの中に入っていきましょう!
国立オリンピック記念青少年総合センターは、もともと1965年の東京オリンピックの旧選手村跡地だった場所。再整備された建物は、まるでおもちゃの国のようです!
広い敷地を奥まで入って行くと、研修会場の『国際交流棟』が見えてきました。この奥に乗務員さんがたくさんいらっしゃるのでしょうか…ドキドキしてきます。
会場では、乗務員研修への潜入をサポートしてくださる、東京オフィス・都市間バス販売企画室の橋口奨さんが出迎えてくださいました。優しい笑顔に緊張がほぐれます。
ご挨拶を終え、目立たないようそーっと会場に入ってみます…!
会場内は、約130名の乗務員さんでぎっしり!
夏休みやお盆、年末年始など繁忙期の前にあたる6月と12月の年2回、このような安全運行にまつわる乗務員研修を実施しているのだとか。
机の上には、今日の時間割が。9時から17時まで、4人の講師らによる講義を中心にみっちり勉強します。
事故がなぜ起きるのか、脳のメカニズムや心理を学ぶ!
最初に登壇したのは、独立行政法人『自動車事故対策機構』の田所和朗先生。
「National Agency for Automotive Safety & Victims' Aid」の頭文字を取って通称NASVA(ナスバ)と呼ばれており、自動車事故の発生防止や事故被害者の支援を行っている団体です。
田所先生の講義では、事故の原因となるドライバーの脳や心理のメカニズムをスライドで解説。「事故防止のポイント」を分かりやすく教えてくれました。
たとえば、この交差点。
「自分が運転する正面の道とそれを横切る道、どちらが広いでしょうか?」と先生。
※左右のスライドは同じ内容です(以下同様)
正面の道…?
実際はどちらの道幅も同じなのだそう、へええ!
大きな道路の車を優先するのが一般的な運転マナーですが、自分の走っている道路のほうを広く感じやすいのが人間の目の特徴。
つまり、こういう交差点ではどちらも「自分が優先」と勘違いして減速を怠り、接触事故を起こしやすいのだといいます。
先生のスライドはまだまだ続きます。
「この坂道は、上り道でしょうか? それとも下り道でしょうか?」
乗務員の皆さん、それぞれが「上り」「下り」と手をあげますが、結果は半々。
つまり、高低が分かりづらい坂道では「上り」と思うドライバーはアクセルを踏み、「下り」と思うドライバーはブレーキを踏む。
すなわち前後のドライバーが違う判断をして、事故が起こりやすい場所であることを意味しています。このような、脳の処理機能によって引き起こされる「目の錯覚」現象は、誰にでも起こるうえ、訓練して治るものではないそう。
そもそも、運転とは1「見る」→2「予測」→3「操作」の積み重ね。
運転しながら常にまわりの状況を把握し(見る)、交差点などに近づくと「人や自転車が飛び出してくるかも…」と注意し(予測)、スピードを落としすぐ止まれるようにする(操作)。事故は、この1から3までの一連の動作のどこかにミスが生じると起こります。
そして、なんと事故の7割が「見る」段階のミスで起こると聞いてびっくり!
えええええ…じゃあどうすれば…。
「大切なのは、自分の注意力に限界があると理解して運転することです」と先生。
年齢やその日の体調、性格などでも「見える」能力は変わる、と聞けば確かにそのとおり。「視覚」を過信しない、という意識で安全運転を心がけるのが事故を防ぐ第一歩。
また、運転経験が豊富であるほど、自分の今までの経験をもとに「たぶん大丈夫だろう」と判断しやすい、つまり「予測」が甘くなる点も注意しなければいけない、と心理的な面からも注意を促します。
運転技術を高めるのも大切ですが、自分の能力を過信せずに状況に注意を払う「意識」のほうがもっと大切。さまざまな実例を見ながら解説を聞くことで「つねに安全を意識しなければ」という、いい意味での緊張感が高まっていくのがこちらにも伝わってきます。
1時間ほどの講義を終えて、いったん休憩。真剣に聞き入っていた皆さんの表情が和らいで、ホッと笑顔がこぼれます。
ひと息ついた後も、「運転中はどこに注意を向けるべきか」という気づきを促す演習が続きます。
運転席から見える風景を撮影した写真を見ながら、もっとも気をつけなければいけないのはどこか、各自が印をつけていくワークが始まりました。
配布されたプリントを真剣に見つめながら、乗務員の皆さんがそれぞれに印をつけています。
ふだん当たり前に気をつけていることでも、こうして改めて振り返ることで「これでいいんだな」という再確認ができたり「なるほど」という気づきが生まれるのかもしれませんね。
この講義で印象的だったのは、事故を起こさないために必要なことは「自分自身を振り返れる能力」という言葉。単に「安全運転を心がけよう」と思うだけではダメで「私は焦るとミスを起こしやすい性格なので、時間に余裕を持って動こう」など、自分の弱点を見つめて具体的な対策を高じておくこと、それが安全運行につながるということです。
安全運転にまつわる研修と聞いて「運転技術の話が出てくるのかな?」と勝手に先入観を持っていましたが、事故防止にはドライバーの意識向上が欠かせないという点に改めて気づきました。
ふだん安全かつ快適に高速バスを利用できているのは、当たり前のようで乗務員の皆さんがキチンと安全意識を保ってくれているからなんですよね。これからもバスを乗り降りする際には、乗務員の皆さんへの挨拶やお礼を忘れないようにしたいな、と思いました。
ドライブレコーダーを通じて、事故現場を見つめる
まだ午前の部が半分終わっただけだというのに、かなりの充実感。続くプログラムに向けて、冊子が配られます。
次に登壇するのは、静岡鉄道グループで路線バスや貸切バス事業を展開する『しずてつジャストライン』の八木敏晴先生。
テーマは「ドライブレコーダーを活用した交通事故防止について」です。
18歳から運転の仕事を始めた、という大ベテランの八木先生がまだ入社して間もない1977年。
静岡鉄道が運行する観光バスが山梨県・昇仙峡で乗客を乗せたまま転落する、という悲しい交通事故があったのだそう。それから約40年の間、社をあげて再発防止に力を注ぎ、今回のような乗務員向けの研修や、交通刑務所の受刑者を対象にした講演など、事故を未然に防ぐ啓発活動に取り組んでいるとのことでした。
最初に流れたのは、今年1月に軽井沢で発生したスキーバス転落事故のニュース映像です。
先生が、実際に現場に足を運んだときの写真も交えながら、どうしてこのような事故が起きたのか検証していきます。
高速バス、夜行バス業界に激震が走った大事故です。どの乗務員さんも食い入るように映像を見つめ、検証に耳をかたむけていました。
続いて、約40年前の昇仙峡事故のニュース映像も流れます。ニュースを通して写し出されてゆくのは、担架で運ばれる乗客など当時の事故現場の生々しい様子。
朝から、私語のない熱心な雰囲気で研修が進んできましたが、事故映像が流れている間、会場は重々しく引き締まった空気。乗務員の皆さんの表情も、少し険しく見えます。
「どの乗務員も運転は上手なはず。プロとして必要な資質は、どれだけ早く危険を予想できるか、という確認技術です」と先生。先ほどの田所先生が「乗務員の意識が大切」と言っていた点とつながり、ハッとしました。
その後は、ドライブレコーダーに記録された実際の事故映像を参考にしながら、どうして事故が起こったのか原因を考察していきます。高速道路を走っているバスが時速100キロで前の車に追突する瞬間など、衝撃的なシーンが映る度、会場からはため息が。
また路線バスを走る道路の植木の影から子どもが急に飛び出してくる映像では、減速してクラクションを鳴らしたにも関わらず、残念なことに接触してしまいます。
ここで先生が注意を促すのは「コンビニエンスストア」の存在。
「子どもからお年寄りまで道路を横切りやすくなるのがコンビニ。しかも、誰もがバスは停まってくれると思い込んでいます。歩行者の交通違反も含め、不幸な偶然が重なってしまうことはあるもの。
事故を未然に防ぐにはコンビニのそばは、人が飛び出してくるかもと、ドライバー側が危険を予測し、注意しておかなければいけないんですね」と先生。
歩行者側の私たちは、こんなに安全に対する意識を持ちながら生活しているだろうか。
我が身を振りかえさせられます。聞いたところによると、ドライブレコーダーの映像は“社の財産”と呼べるくらい大切なものとのことでした。
それを事故防止につなげるため、惜しみなく提供する会社があり、そこから学ぼうとする会社があります。安心して高速バス、夜行バスを利用してもらうために、業界をあげて取り組んでいこう、という決意がひしひしと感じられました。
午前中の研修が終わった後も、すぐには席を立たず、懸命にノートにメモを取る乗務員さんの姿があちこちに。
昼食を終えた後も、道路交通安全マネジメントシステム認証「ISO 39001」 についてや、どのような状況下でも落ち着いた気持ちで運転ができるストレスマネジメント法「マインドフルネストレーニング」の講義など、夕方まで研修は続きました。
「安全への意識」もバス会社選びのポイント
桜交通が、どれだけ安全運行を重んじているのか垣間見ることができた今回の潜入体験。その取り組みについて、橋口さんに聞いてみました!
最近の取り組みとしては、グループ全体でバスの安全・安心の『見える化』実現を目指しているんですよ。
たとえば衝突防止機能や居眠り感知モニターなど、バスの安全装備を積極的に搭載しているほか、お客様が検索画面で自分の乗ろうとするバスにはどんな装備があるのかWebサイトで確認できるようにしています。 おかげさまで重大事故もなく、安全運行の評価をいただいていますが、今後も悲しい事故が発生しないよう『安全はすべてに優先する』というスローガンを掲げて、安心してお客様にお使いいただけるバス事業者を目指します!
高速バスを選ぶとき、ついつい「価格」や「時間」に左右されてしまいがちですが、命よりも大事なものはありません。
これからはちゃんとバス会社の安全面の取り組みを調べて、選択の基準に加えよう!と、改めて安全の価値を再認識した1日でした!
※取材協力/桜交通
※本記事は、2016/12/28に公開されています。最新の情報とは異なる可能性があります。
※バス車両撮影時には、通行・運行の妨げにならないよう十分に配慮して撮影を行っています。
木内アキ
旅好きライター 女性
北海道出身、東京在住。"オンナの自然で楽しい暮らし"をテーマに、雑紙やウェブで旅・人・雑貨の記事を手がける。旅の目覚めは小4のときの父娘欧州旅(ベルギー・オーストリア・スイス・フランス)がきっかけ。旅行の好みは国内外問わず、日本は47中40都道府県に訪問。もうひと息!目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
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